
はじめに
あとわずか4年先と迫った21世紀初頭には、わが国は本格的な少子・高齢化社会が到来するといわれています。
その要因には、著しい出生率の低下と死亡率低下による高齢世代人口の割合が高まっていることがあげられます。また、平均余命の延びによる人口構造の高齢化に伴い、家族形成の多様化という傾向も続き、国民の4人に1人が高齢者という状態が1世紀近く続く高齢者の世紀ともいわれています。
かつてない高齢社会の到来という厳しい時代の流れにあって、新ゴールドプラン、エンゼルブランの策定に続き、障害者ブランが発表されて1年が経過しました。
地方分権、行財政改革、社会保障制度全体の再構築の動きなど、社会福祉も大きな変換期を迎えており、さらに障害者施策の総合的な支援体制とサービスの質の向上や実施体系が見直されるなど、障害者福祉も新たな潮流に乗って急速に進んできています。
一方、社会保障制度は高度経済成長期における経済成長の成果を享受するなかで、社会保障制度の整備、拡大、社会保障給付費の延びを実現してきました。
しかし、これからはかってのような高度経済成長を望める環境にもなく、少子・高齢化社会では年金、医療、介護に代表されるように高齢者にかかる社会保障給付費が増大していき、これを主に支える若年世代が減少することにより、世代間扶養のバランスが崩れていくことが予想されています。このように、障害者が経済的自立を図るうえで極めて重要な役割を果たしている所得保障、社会保障制度も、これからは経済成長の成果を享受するなかでの給付拡大は困難とされてきています。
さらに人口構造における中高年齢層の増加と核家族化により、人口の移動においても都市部への集中傾向と過疎化地域との格差が一層進むことが見込まれ、地域福祉の根幹をなす相互扶助の機能低下も危惧されています。
このように、高齢化と少子化という社会環境の変容は、地域で生活する障害者とその家族をとりまく環境にも、さまざまな影響をもたらすこととなってきています。
障害者が地域で共に生活するためには、ノーマライゼーションの理念のもと障害のない者と同等に生活し、活動していける社会を構築していくことが必要ですが、生きがいをもって、安心し、安定した生活を送るためには、心の壁、物の壁、制度の壁という3つの障壁を克服していかなければなりません。
さらに、親亡き後にも障害者が住み慣れた地域の中で共に生活していけるためには、地域の人々の理解と支援を得ることと同時に、障害者も各々のライフステージの各段階で自分にあった生活設計を立て、自助努力を行うことがこれからの21世紀に向けて大変重要となってきています。
全肢連では、肢体不自由児者に対する総合支援の調査研究事業として、1992(平成3)年より、「全国レスパイトサービス基礎調査」「福祉マンパワーの確保と活用」「ファイナンシャルプランニングの研究」「肢体不自由児・者の暮らしに関する調査研究」を行い、障害者と家族の視点からのニ一ズ、現状と課題として3つの壁を検証し、それらを解決するための方策について多角的に調査研究してきました。
これまでの調査研究を踏まえて、今年度から3年計画により「肢体不自由者の生活設計と高齢化に関する調査研究」事業として、来るべき少子・高齢化社会における障害者と家族の将来というテーマとして、生活設計について調査研究を行うこととなりました。
本書では初年度の基礎調査報告として、肢体不自由児者と家族がより豊かで安定したライフスタイルを立てていくための指針となるよう、来るべき高齢化社会の姿を把握し、より良い生活設計を立てていくための取り組みについて、財と税、制度面での内容についても詳しく紹介し、さらに肢体不自由者と家族のための生活設計を立てるための具体例を提案しています。
3つの壁を克服していくためにも、心理的、経済的に将来に対する不安を軽減し、ゆとりをもった総合的な生活設計を立てていくためにも、それぞれの分野において本書を活用していただければ幸いです。
なお、本事業の実施については、日本財団(日本船舶振興会)からの補助金交付を受け実施したことを報告するとともに、御礼を申し上げます。
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